家族愛の歌「home」ヒットさせた木山裕策さんはシェアオフィス通いの日々

事務所も会社も辞めちゃった

2008年、39歳という年齢で歌手デビューし、デビュー曲「home」がヒットした木山裕策さん(51)。優しい歌声で温かい家族愛を歌い、多くの人の心を打った。加えて、がんを乗り越え、会社勤めをしながら歌手活動をしている、という異色さも多くの人の記憶に刻まれた。木山さんはその後も“兼業歌手”を続けてきたが、昨年、大胆な決断をしたという。木山さんに詳しい話を聞いた。

実は、去年11月にデビューからずっとお世話になっていた事務所を離れました。50歳になったのをきっかけに、これからの10年の過ごし方をちゃんと考えたい、と思ったんです。30代は会社員として昼夜かまわず働きどおしで、39歳でデビュー、40代は会社員と歌手活動を並行し、ほとんど休みなく走り続けてきました。で、思ったより40代が早く過ぎてしまった。この調子で50代を生きていいのかと、この1年、ずっと考えていました。

そうして出した結論が、“これからの10年は歌を中心に組み立てたい”。60歳になってからでは、体力が衰えているかもしれない。ならば最後にもう一回、ここで自分のやりたいことを整理しようと、勤めていた会社も辞めました。僕は息子が4人いて、一番下の子はまだ中学1年生。「大丈夫ですか!?」って周りにずいぶん心配されます。言われるうちに、僕も不安に……もともとあまり後先考えずに突っ走ってしまう性格なんで(笑)。でも、今は歩き始めたばっかりだから、ワクワクのほうが大きいですね。
歌とお話でメッセージを伝えていきたい

事務所を辞める必要はなかったのでは、と思われるかもしれませんが、僕はいったんここでリセットして、ゼロから新しいスタートを切りたかったんです。“ゼロスタート”をしたがるのは、僕のクセのようなものですね(笑)。そして、小規模でもいろんなところで、たくさんやりたいことがある、というのも理由です。大きな事務所にいると、小規模な仕事ばかりを増やしては、迷惑をかけてしまうかもしれないので。前の事務所でお世話になった、私のプロデューサー(tearbridge productionの伊東宏晃社長)とは今も関係は変わらずに音楽やお仕事の面でずっと支えてくれているのでとても感謝しています。

やりたいことは歌を軸にいろいろあって、もちろん食べていくために営業のお仕事もやっていきますが、ひとつはいろんな世代の人たちに歌とお話でメッセージを伝えていきたい。もともと人前に出るのは苦手だったんですけど、会社員として管理職を経験してから、人と接してメッセージを伝えることはすごく意味があることなんだと気づいたんです。

甲状腺がんは克服した!

ひとつは、これまでもやってきたのですが、子供たちに、なんで39歳で歌手になろうと思ったのか、僕のこれまでの人生に歌を交えてお話したい。それから、がん経験者としても話をしていきたい。たとえば、2月4日は「世界対がんデー」でして、がんとの共生社会を目指す「ネクストリボン2020」の活動に参加し、今年もトークをして歌を歌います。僕はがんになって考え方が変わり、「自分の子供たちに声を残したい」と歌手になって人生が変わりました。がんになっても明日に希望をもって生きよう、というメッセージを発信したい。

ちなみに、僕が発症した甲状腺乳頭がんは予後の良いがんということもあって、甲状腺を半分摘出の手術をしてから10年以上、再発もなく過ぎることができました。もう、こまめな定期健診や服薬もしていませんが元気です!

絵本、歌作り…活動の領域を広げたい

新しく始めたいこととしては、同世代の管理職の会社員の方にも話をしたい。僕は歌手をしながら広告会社やゲーム会社で15年以上管理職をやってきたので、その経験が生かせれば、と思っています。それから、50~60年代の名曲や、僕の心の奥にずっと流れている童謡も歌い継いでいきたくて、そうした歌を高齢者対象のコンサートで歌い、かつ、みなさんと一緒に歌いたい。

そのほかに、切り絵の趣味と、昔、目指していた脚本家の夢を合わせて子育ての絵本を作りたいとか、自分の歌を作るとか、活動の領域を広げていきたいですね。これまでは会社勤めがあって平日は活動できなかったので、これからは、いつかやろうと思ってたことをぞんぶんにやっていきたい、と思っています。何から芽が出るか。今は種まきの時期ですね。
シェアオフィスに出勤する生活に

長年、会社勤めをしていたせいで、フリーになっても家にいたらダメだと、会社を辞めた次の日に、池袋のシェアオフィスを月1万5000円で借りて通勤しています(笑)。周りの人は僕だと気づいていないと思いますよ。9時半出勤で、何もなければ18時にあがります。何をいつまでにやるか、というタスク表を作ったりもして……マジメな会社員の習慣が抜けません(笑)。制作は得意なので、ホームページもチラシも自分で作っていますよ。

妻や子供たちには“51歳になって働き方を変える理由”を説明し、応援してもらっています。2歳年下の妻は公共施設に勤務していて顔が広く、ちょっとした営業マンになってくれています。僕、歌手をしながら6回も転職しているので、子供たちは「また!?」と、僕が仕事を変えることに慣れているみたい(笑)。長男はもう23歳で会社員をしていますが、僕と似て音楽や映画が好きで、僕が新しく始めたユーチューブを手伝ってギターを弾いたりしてくれているんですよ。

□木山裕策(きやま・ゆうさく)1968年10月3日、大阪市生まれ。大阪外国語大学外国語学部(現・大阪大学外国語学部)卒業後、脚本家を目指して1993年上京したが、27歳で結婚し、28歳でリクルートメディアコミュニケーションズ(現・リクルートコミュニケーションズ)に就職した。2004年、甲状腺乳頭がん発覚・治療を機に歌手を目指し、2007年、オーディション番組に挑戦。翌2008年、「home」(tearbridge records)で歌手デビューし、同年末のNHK紅白歌合戦に出場した。2019年12月、ユーチューブで「マジウタちゃんねる」開設。

Yahoo!ニュースより引用 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200203-00010001-encount-musi&p=2